長江を、船は行く。
 流れを周瑜は見下していた。濁った薄茶は、目に入る印象よりもはるかに力強いことを周瑜は知っていた。
夕暮れが差して、眼の奥が疼いた。
――親友の父、孫堅が矢に射られて信じられないほどあっけなく逝ったとき、周瑜は黒い光を見た。そしてそれを、親友の将来にも幻視した。親友、孫策も同じものを見たと知ったのは、直後のことだ。
「だからきみは、その短慮を改めるべきだ」
今でも覚えている。孫堅の墓前は今のように赤い陽で照らされていた。
一軍をまとめる将でありながら前線を駆けるのは、孫策と孫堅の悪い癖だった。
「士気を上げるやり方はいくらでもある。私が考える。だから、」
「やめねえよ、これはおれの戦だ。おれが戦わなくて、誰が戦う? 」
 孫策は開け広げな笑顔で、白い歯すらのぞかせている。周瑜が孫策を殴ることをしなかったのは、周瑜が漢室において三公を輩出した名家の出身だったからだ。自分を産み落として以来病がちになった母と姉と育った周瑜は、拳をあげるという手段を知らなかった。だから周瑜は、右手を握り締めることしかできない。
「男ならこの乱世を平らげるべきだ」
「だから、私の言うことを聞いてくれ!」
「お前は周家の嫡流からも一目置かれてる坊ちゃんのくせに、漢室にもうその力はないと言う。そしておれに助力するために、親父に従軍した。」
 孫策はゆっくりと周瑜に近づいてきて、囁いた。
「おれに覇を唱えさせるため、だろう? 」
 周瑜は後ずさる。
「もしやきみは悟っているのか。あれは将来、起こる出来事だと」
 そうだなあ。
 孫策は少し考えるふうに首を傾げた。
「矢が当たって死ぬなんて考えたことはねえけど。たぶん親父もそうだったんだ。これって、おれも親父みたいに死ぬ証拠なんだろうな」
 周瑜はその後も変わらず前線で指揮を採り続ける孫策に、刻一刻と近づく死の気配に耐え切れなくなった。
母の病を建前に、孫軍を辞した。
はずだった。
――それなのに。
孫策の駐屯する歴陽に、向っている。
ばかだ、と周瑜は思う。伯符がばかなら私は大馬鹿だ。
やがて、船が着いた。
周瑜は陸に降りてすぐ、孫策を見つけた。迷いようがなかった。背丈が、肩幅が、頬が、別れたときよりも男ぶりを増している。少年らしかった鬚も、年の割には長いくらいだ。
「やっと戻ってくる気になったか、公瑾! 」
「変わっていないな」
 孫策は喜びのあまり、周瑜を抱きしめた。もみくちゃにされる。再会に目の端の潤みを感じながら、周瑜は思った。
(きみの将来に暗い光があって)
(きみはわたしよりも先に死ぬ)
(きみの腕のなかは針の筵のようだよ)

 









都合のいいところだけかぜ江です。






覇よ覇よ、お前を如何せん