「政宗様」
曹丕は伊達政宗を呼んだ。
その口調は淡々としている。
しかし、魏の初代皇帝が、日本という小国の北部を統べるのみの政宗に、敬称を付けなければならない心情は複雑なものであろう。
現在魏は遠呂智の属国にある。対して政宗は遠呂智の盟友という立場であるから、どれだけ矜持が高かろうとも身分の差はつけなければならない。
だが、三国鼎立の時代と日本の戦国時代が同じ異世界に飛ばされるという事態が異常なのだ。この世界を否定し続けてもよさそうなものだ。尤も、曹丕は現実に対応できないではないような皇帝ではなく、ましてや腹を政宗に悟らせるような小物でもない。
「如何した、曹丕殿」
「わが父の詩を解する者が、なぜ自ら王とならぬのかと」
政宗はふふ、と笑い、
「確かにわしはそなたの父君を敬っておる、
だが、『才ある者よ、悠々たる我が心は、君がゆえに沈み、歌うのだ』だ」
「父の『短歌行か』
「わしが統べるはわしの国じゃ。このような異界、興味はない」
「遠呂智が覇権を握るなら、それでよし、と? 」
「強大な敵に挑むことを、至高の悦びとする兵を知っておるのでの」
「それは、」
「恋だとも」
政宗は踵を返し、曹丕の前から去った。背の、金糸で彩られた独眼龍が踊る。
遠呂智の居城は、再び静寂に包まれた。
大乱の前の。