女の足首は白い。
男はみずからを焦らすように、まず女の脛にくちづけた。走ったことなどまるでない、そっと掴むと腿は底知れずやわらかであった。産毛は甘い。脛を舌でたどっていく。爪先は貝合わせの貝の裏側に似て桜色であった。
男にもっとも大事にされているのは、自分に違いない。女は自信を持って思った。女はぶよぶよとした脚と信じこんでいたが、男はそれを舐めた。ろくに歩いたことのない脚を誉められたのははじめてだった。女はかつて姫と呼ばれていた時分を思い出した。その頃にも感じたことのなかった心地よさであった。
屋敷が焼けて以来女を抱く男たちはいつも、女の肥えていることを口汚く罵った。この男はそれらよりもずっと身分は低く、氏すら知れないが、はるかにやさしい。
男は実のところ都じゅうで有名で、触れたことのない女などいないと評判であった。いろごのみといえば伊勢の昔の貴人のようだが、女はこの夜まで侮っていた。女は改めた。男は逢瀬のあいだ、女を誰よりも愛すのだ。
「わたくしはしあわせものだわ」
女は呟いて、瞼をおろした。