――南蛮人が信じてる宗教じゃ、神様は自分に似せて人間を作ったらしい。
だったら、この世の中のことについても、ちょっとは理解できる気がするよな。
そうだろ。自分に似ているやつ程、むかむかくるやつがいるか?
殺されても、人間はなかなか死なない。
仕事で、あるいは趣味で、何かしらの縁で殺しをやった人間が大概知っている事だ。
それこそ仕事にしている様な連中が、正しい手口で素早くやったとして、それでも時にはいつまでも生きているやつがいる。
頭が吹っ飛んだのに気付かないで、走って逃げるやつを見たことないか?畜生の類なんかでさ。虫でもいい。奴らは体が大分ごっそりなくなっても平気だ。蜻蛉なんか、半分になっても飛んでるだろ。悪いガキにでも捕まってさ。
おんなじ事があるんだ。
人殺し連中なら知っている。
盥一杯分は血を流したのに、「あれ?何で立ち上がれないんだ?」って顔でどうにか動こうとしているやつや、首を吊ってるのにいつまでも足をバタバタやってるやつ、どう見たって死人なのに、道を歩きまわってるやつ。
俺は脚がないのに走りまわってるやつも見たことがある。脚がないのに気づいてないんだ。その男は足がないって気づいた途端に地面に転がって、そのまま少し動いて、すぐに死んじまった。
介錯ってあるよな。あれはどうしても必要で、ああしてるんだ。
でなきゃ、腹が裂けてるってのに、いつまでも生き続けるやつが出てきちまう。
あいつら、何なんだ?
この世に神仏はどうやら国やら海を越えた向こうやらにも、信じる人間の数だけ種類があるらしいんだが、誰の信じる神さまも、そんな事が起きるのを、お許しになってるって訳だ。
血を流しながら、ぐちゃぐちゃに砕けながら、心臓がぶっ潰れて、それでも、息がある、なんてことを。
どんなに殺しになれても、あんまり出会いたい事じゃない。
だって、ぞっとしないよな。そうだろ。
こんなことを俺が言い出したのは、信長が、頭が半分なくなった状態で口を利いたからだ。
暫くそのまま生きていた。自分の片頬に、砕けた骨の欠片がへばりついて、剥き出しになった血の管が幾筋かの赤い肉の筋と一緒に垂れ下がっていたってのに。
俺がやったんだ。
まさか、ここで、あれがくるなんて思わなかった。
あっさり死ぬと思い込んでいた。俺にとってあいつは人間じゃなかったんだ――
今はもう死んだ。だが死ぬ前に暫く生きていた。
死んでる筈なのに口を利いた。同じ事を何度も言ってるのは、同じことばかりぐるぐる考えてるからだ。俺はあいつを殺したかったが、あんな奴を見たかった訳じゃなかった。
――お陰で判ったこともある。
誰でもなるんだ。誰も同じなんだ。
戦場に出る、俺たちみんな。
戦場にいる男は、どいつもこいつも俺に似ていた。
俺同士で戦っているようなもんだった。何人もの、本当なら死んでいるはずの傷を負い、瓦礫の中で呼吸をしている、俺に似たやつら。
たまたま、俺じゃなかっただけだ。
いつか、たまたま俺だった、って事になるだろう。
俺はどっちなんだ?死ねるのか?死ねないのか。
どちらがいいとも思わない。そうなるしかないと、既に決まってるもんなんだろう。
生きた人間の周りを、死人が歩き回っている。
死人は生きた人間の振りをしながら、俺達を見ている。
何人もの、俺に似ていたやつらが。
俺は生きた人間を殺すのに忙しくて、やつらにとどめも刺してやれない。