「…より後藤基次、京より長宗我部盛親」

 ぱちん、ぱちん、と政宗は扇を閉じ開きながら、脇息にもたれ、大坂城に入った牢人の名を、片倉小十郎重長から聞いている。

「九度山より真田信繁」

 音が止んだ。政宗が瞠目して手を止めたからである。

 真田信繁。

 政宗はよくよくその名を舌で吟味した。信じ難い思いでいる。

 政宗が信繁を知ったのは二十四年も前だ。政宗が太閤秀吉にはじめて目通りを願った頃二十三歳であった。信繁は同い年で、真田家から秀吉に差し出された人質であった。馬廻り衆として独自の地位を持っており、それは常に明朗で初夏の風のごとく微笑(わら)っている人望に依っていた。ごく事務的な会話を交わしたのみだが、相対していると政宗はどこか己が疾しい生き物に感じられて、信繁が苦手だった。政宗は父を撃てと命じ、弟に切腹を申しつけたことがある。

 信繁は日向を歩いていたはずだ。この世のすべてに愛されていたはずだ。

「……違ったのか」

 政宗は隻眼を伏せ、ややあって戦支度に取りかかった。

























ミスリード