「天守は八層にするつもりでございまする」
 織田信長、そして織田家の臣下たちが居並ぶなか、伊達政宗は胸に秘めていた計画を言葉にした。
場の空気が固まることはわかっていた。織田信長のおわす安土城は七層である。きりしたんの教えに拠るという。それを越える高さの城を建設するというのだ。信長が怒ることは明白であった。信長は癇気にふれた者には容赦がない。ただすぐれた指導者であるゆえに、家臣に恐れられながらもカリスマ性として受け止められている。政宗がここで殺されたとて、織田家中は対して驚きはしないだろう。形式上、信長は織田大日本帝国国王、政宗は伊達国国王。この同盟する国主たちに年齢差いがいの上下はない。
だが、領地があまりにも違う。
それでも、政宗はここで示したかった。
属国ではない! 
ゆっくりと面を上げる。信長は、剣のような眼光を政宗に向けていた。政宗は負けじと奥歯を噛みしめて見つめ返した。
緊張がはじける、一瞬前。
 笑い声が響いた。政宗はおどろいてそちらを見る。まだ少年のように幼い軽やかさで、笑っている。緑の大紋は大きすぎて似合っていない。場違いであるように見える。しかし彼こそ、次代の織田大日本を背負って立つ存在だと政宗は踏んでいる。
先の統一線に鮮やかな戦功をあげた、
 織田、幸村。
「よいではありませぬか、父上」
 場が一変する。
 助けられた、と思った。しかし政宗は若いなりに、国主の人間としての狡猾さも持ち合わせている。己を許せないほど子どもではない。許さなければ先には進めない。ふたつの感情が揺れ動く。
いや、三つ。
 政宗は織田幸村の軽やかさを好ましいと感じた。
 政宗は幸村に感謝の視線を投げた。やんわりとした微笑が返される。
「聞けば政宗どのは私と同年の生まれとか。私は兄上を助けて政を進めねばならない身。片腕でいらっしゃるという小十郎殿との逸話など、お聞かせ願えればと思います」
 政宗は幸村が、養父の跡を継ぐのではなく義兄の手伝いをしたいと心底思っているらしいことに驚き、呆然とした。養子の身分をわかっているどころではない慎み深さだ。何て、欲のない。
「……むろん!」
 政宗は目まぐるしく動く幸村への感情に自分でも戸惑った。憤り、好感、呆れ。同時に楽しいとも感じる。欲しいと思う。友になりたいのか、と政宗は自問する。どうやらそうではないようだった。友でないなら何に。わからない。
わからないが、もし幸村が次の皇帝になるのなら、永劫に変わらぬ同盟を約束しよう、と政宗は心の底で誓った。織田家中で発言するほど、愚かではなかった、けれど。
「存分に、語り合うがよい」
 信長の高い声に、政宗はすべてを見抜かれているように感じた。それでもよかった。