「上様御自ら江戸へ下れ、と?」
桜色の単衣に掛かったみどりの黒髪がふわりと揺れる。紅をひいたくちびるが、ころころと笑っている。仕草はまるで少女のようで、その女が時代から取り残されたことを象徴するかのようだった。
「は」
「且元は可笑しいことを申す。徳川は豊臣の家来筋であるぞ。なあ、治長? 」
だが、情人と噂される大野治長に同意を求める目元の下はかすかにたるみ、重ねた白粉で影が見えた。淀殿は、今年で四十五になるはずである。
 静かに伺候していた真田信繁は、ようやく面を上げた。
「牢人衆一同、そう思っております」
 信繁は、にこやかに微笑んだ。
「また、この日の本に太閤様のご恩なき大名はおりません」
 信繁は大きく腕を拡げてみせた。奥州から九州まで、示してゆく。
「特に伊達、佐竹、上杉、山内、島津、……いずれ劣らぬ武勇の者たちばかり。皆上様の御為と、書状が届き次第奮って立つでしょう」
「さすがは名軍師真田昌幸殿の次男、真田左衛門佐殿よ」
 信繁が辞してのちも、ころころといつまでも響く夢幻の歌のように、淀の笑い声は大坂城天守に響いていた。
 天守をおりて、信繁は廊下で、ある男とすれ違った。大丈夫である。主君を見つけたのだから、もはや牢人とは呼ばれないのだが、当人はむしろその呼称を好んで、無精髭を生やし、わざとざんばら髪でいる。渋茶の袴が、いたるところがきらきらしい大坂城ではかえって目立った。
 後藤又兵衛基次、である。
「また、煽って参ったのか、真田殿」
「ええ、」
 信繁は笑みの種類を変えた。
 又兵衛もくつくつと、喉を鳴らしている。
「せいぜい大いくさにしてやろう」
「まったくわれらは奸臣ですね、又兵衛殿」


















誕生日を祝ってくださったあんこさんへ!
はじめて又兵衛を書きました。脳内ではすごく男前なので、頑張って描けたらいいなあ と思います。
最悪な真田信繁ですが、それを書けてわりと満足です。
もらったほうはたまらないと思いますが、
あんこさん、ありがとうございました!














あんこさんへ!