自室のドアが三度、ノックされた。松永久秀は迷わずに新聞を畳み、革張りのソファを立った。警備対策が万全だからと会社に勧められたマンションだが、この客はアポイントメント無しに、猫のようにするりと久秀の自宅まで入って来てしまう。むしろ誰だか判りやすくていい、と久秀は思いながらドアを開けた。

 鞄ひとつを提げて、青年が立っている。

 吸いこまれそうなほど大きな瞳、革ジャケットからのぞく痩せた腹は、現代において、男どうしのセックスがアブノーマルであることを久秀に忘れさせるほどの艶があった。いっぽうで、髪は性格の奔放さをあらわすかのように自由にはねている。青年は自信の艶を裏切るかのようににやりと笑う。

「クリスマス休戦で有名な松永久秀が、プレゼントも用意してないのかよ」

 久秀は、

「前世は前世、今は今だよ。その理屈が通るなら私はお前を鈴と呼んでいいはずだね、」と返す。

 鈴は久秀が先ほどまで座っていたソファとセットのデスクに浅く腰かけて、

「おれは雑賀孫市だ。おれを鈴って呼んでいいのは姫様だけだ。間違えんな」

 久秀を睨みあげた。久秀は肩をすくめた。

「プレゼントは用意していないが、コーヒーくらいなら煎れられるよ」

「じゃあ、貰ってやるよ」

 久秀がさっそくネルを水から引き上げているあいだに、孫市と名乗った少年はといえば、久秀のパーソナルコンピューターを勝手にのぞきこんでいる。

「うわ、最悪」

「きみは昨日までアメリカにいたんだろう、もっと悪い状況を見て来たはずだがね」

「何で知ってんだ気持ち悪ィ」

「情人がどこで何をしているか、私は気になって仕方のない性分なのさ」

言いながらネルを流水で洗い、湯で余熱したあとで固く絞る。ネルドリップに集中し終わり、沸かした湯をドリップポッドに移して久秀は孫市に背を向けたまま、質問を投げかけた。

「アメリカには何をしに? 」

「銃撃ちに」

 孫市は答えた。

「でもやっぱ、駄目だった」

 少し、残念そうな口調になる。

「人間が的にならねえと、駄目なんだおれは」

 他人の残念さを物語るような口調に、久秀は振り返って沸かしたてのポッドの湯をぶちまけた。孫市は頭からかぶった。黒髪から湯気がたちのぼる。湯の後が焼けて、額から頬に真赤な筋がいくつも出来ていた。

「……お前は! 」

 久秀はうめいた。

 孫市は嗤った。

 久秀というよりも、自らの転生を。

「あけねえな畜生、おめでとう」