「ただいま帰りました」

真田信繁が自宅の扉を開き、キイホルダーのついた鍵を靴箱の上に置くと、奥の五畳半から

「おう、お帰り」

 政宗の返事がかえってくる。

 それは日常茶飯事であった。信繁が帰宅すると、家が政宗の注文した高価な品物で埋まっていることも、特に変わったことではない。家賃および食費は折半、それぞれの生活には金銭的に介入しないこと、と同居をはじめたときからの取り決めどおりだ。政宗は、いつものように政宗の買い物をしたのだろう。 

 だが、信繁はたたきで足を止めてしまった。なぜか。理由がある。政宗が広げている反物が、あまりに鮮やかな色をしていたからだ。

 信繁は、○○○○として十八年、現代の日本人として生きてきた知識でそれを名づける。

「ショッキングピンク」

 そして○○○○のなかの信繁は、目ざとくそのショッキングピンクの反物がほんものの絹でできていることに気づく。そして、なづけ直す。

「掻練(かいねり)」

「お主のために、取り寄せたのじゃ」

 政宗は反物をさらりと広げる。掻練の色は、今でこそチープなようだが、同時は最高級品だった。信繁は思い出す。山の手殿の機嫌をとるから買い取りの着物を取り寄せてくれと、父、昌幸が、大坂城の人質にあった信繁に頼んできたのだった。堺の港に出かけると、小西行長に会った。商人たちが、ひしめいていた。

「近う」

 ここは、どこだ。

「近う寄れと言っておる」

まるで四百年前の雑踏にいた信繁を呼びとめるように、政宗は信繁の右指の先を掴み、ひろく広げた脚の中央に、強引に尻餅づかせた。

「見立ててやろうぞ」

「わたしに、似合いますでしょうか? 」

 信繁は座りなおしながら、苦笑した、はずだった。政宗の絶対の自信を持っている様子の横顔に、一瞬胸が高鳴る。

「わしがここにおる、信繁」

 だから何も案ずるな。

 守ってやろう。時の流れからすべてから。

 手前勝手な物言いに、信繁は

「はい」

 やわらかな笑みで応じた。