先づ以って今度の意趣、兼ねて御知せも申さざる候、御立腹余儀なく候。然れども内府大坂にあるうち、諸侍の心如何にも計り難きに付いて、言発の儀遠慮仕り畢んぬ。

 ――千言萬句申し候ても、太閤様御懇意忘思い食されず、只今の御奉公希所に候の事。

 

 千言万の言葉をもってしても、太閤様のご恩をお忘れになりまするな。只今のご奉公を、切にお願い致します。

 

 石田三成からの密書を受け取って、真田昌幸は白髪のまじって、まるで古い筆のようになった眉をしかめた。

昌幸は、三成と妻どうしが姉妹である。また、次男幸村の妻が、三成の友大谷義継の娘である。閨閥の関係は深いが、昌幸自身は、三成をあまり評価していない。官僚としてはともかく、秀頼様が成長なさるまで、天下を支えきれるかどうかと考えてしまうのである。

そこで、昌幸の脳裏を野心がかすめる。天下簒奪である。

「真田の里をいかに守るか。その一点をお考え下さいませ」

 信幸がずばりと付け加えた。我が子とはいえ見透かされるのは心地よいものではなく、

「わかっておるわ」

 昌幸は苦々しく答える。

 領地を守るだけで、表裏比興の者と呼ばれたのである。ただ、守りに徹するだけでよいものか、と思ってしまうだけだ。

「このうつくしい里を」

兄の言葉が心の臓に響かない。

確かに、うつくしい里であると思う。

田はみどりに輝き、木々の色は濃い。

戦よりも田畑を耕し、馬を育てることに長けた人々は、いとおしい。

だのに幸村は、それをどこか空しく聞いてしまう。悲しかった。青年期をほぼ人質として過ごしたためだと、幸村は思った。

兄がいてよかったと心底思う。我が身には空洞がある。もしも兄に何かあって当主となったとしたら、きっと真田を守りきることができないだろう。

「信幸、そなたは徳川につけ。儂は豊臣につく」

 幸村は、当然のことと感じた。







メモには「幸村さんがメーテルな話」と書いてある謎の話。