恋をしている。
 梅は強く、強く想う。
白いものがまじりはじめ、灰がかって見える髷。滑らかな頬。細い眉。少年のごとき輝きを宿した瞳。品のいい鼻梁。小さめのくちびる。
 父の面立ちが、梅は好きだ。
飾らないところが好きだ。それでいて鬼神のように戦に強いところが、何よりも好きだ。
だから阿梅は父が自分を生かそうとしていることが寂しい。父に残して死なれることがとても悲しい。
「梅は父上とともに散りとうございます。叶わぬなら、兄上とともに。梅は生き延びたくなどありませぬ」
「ならぬ」
 幸村は梅の頬をそっと撫でた。死を覚悟した穏やかな顔に、梅は目を見開く。
「嫌、嫌です」
「お前には、大八を菖蒲をかねを守ってもらわねばならぬ」
「父上以外の男が頼りになりますか」
「吾れより強い男を見つけてやろう」
「いるわけがない」
「見つけてやる」
 この翌々日、真田幸村は生涯最期の賭けに勝つ。それは同時に梅は最大の賭けの敗北を、初恋の終わりを意味していた。