雨が降っている。
正坐をして顔を覗きこんでいると、仰向けに寝た幸村が、かすれた声でもう死にますと言う。幸村の濡れていっそう濃くなった黒髪に水滴が落ちて、したたっていく。血色を刻々と失う頬をゆがめて、幸村は白くなったくちびるでもう死にますとはっきり言った。わしもこれは死ぬなと思った。もう死ぬのか、とわしは訊ねた。死にますとも、言いながら、幸村は目をひらいた。ぱっちりとした、長い睫にくるまれた眼は、虚しく黒かった。わしがあざやかに浮かんであがっている。
わしは透きとおるほど深く見える黒い瞳の潤いを眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、額に額を付けて、死ぬのか、とまた訊き返した。すると幸村は眠さをこらえるように眼を見張って、でも死ぬのです、仕方がありませんと言った。
ならばわしの顔が見えるかと一心に聞くと、見えるかって、ここに映っているではありませんかと笑ってみせた。わしは黙って、額を離したが、幸村の体温はふたたび雨に奪われていくようで、こんどは頬ずりをした。どうしても死ぬのかと思った。
しばらくして、幸村がこう言った。
「死んだら、埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って。落ちてくる月の欠片を墓標に置いてください。そして墓の傍に待っていてください。また会いにきますから」
わしは、いつ会いに来るのかと尋ねた。
「陽が昇るでしょう。それから陽が沈むでしょう、そうしてまた陽が昇るでしょう、――東から西へ、東から西へと落ちていくうちに。政宗殿、待っていてくださいますか」
わしは黙ってうなずいた。幸村は淡々とした調子をいちだん上げて、
「二十四年待っていてください」
と思いきった声で言った。
「二十四年、私の墓の傍に待っていてください。必ず会いに来ますから」
わしはただ待っていると答えた。すると、黒黒とした瞳のなかにあざやかに浮かんでいたわしの姿がぼうっと崩れた。涙が流れだしたと思ったら、幸村のまぶたがそっと落とされた。もう死んでいた。
わしはそれから城の残骸を引っ繰りかえし、真珠貝を探しだして穴を掘った。真珠貝は大きく滑らかで縁のするどいかたちをしていた。土を掬うたびに、貝の裏側に星の光が差した。いつのまにか雲は晴れ、夜空があらわれていたのだった。湿った土を掘り、幸村をそのなかにおさめた。やわらかい土をそっと掛けた。かけるたびに星の光がきらめいた。
それから大坂じゅうを歩いて月の欠片を拾ってきて、かるく土の上に乗せた。月の破片は白く丸かった。ながいあいだ空を落ちるうちに、角がまるくなったのだなと思った。
わしは苔の上に座った。これから二十四年こうして待っているのだなと考えながら、丸い墓石を眺めていた。そのうちに、幸村の言葉どおりに陽が東から出た。ひどく赤かった。それがまた幸村の言ったように西へ落ちた。ひとつ、とわしはかぞえた。しばらくしてまた太陽が昇った。
わしはまたこうして一つまた一つと数えていくうちに、赤い太陽をいくつ見たかわからなくなった。勘定しつくせないほど太陽が頭上をすぎていった。それでも二十四年はまだ来ない。しかし、幸村がわしに嘘をかたるはずがなかった。
すると石の下からまっすぐわしのほうへ青い茎がのびてきた。見る見るうちに長くなってわしの胸の前でとどまった。と思うと茎のいただきに、わずかに首をもたげていた蕾がゆたかにふくらみ、花弁をひらいた。白い蓮であった。喉がかわくほど甘く匂った。
やがて目覚めると白いのはわしの寝巻であった。江戸の屋敷に滞在していたわしを、よく鍛練されて節くれだった幸村の手のひらが迎えにきていたのだった。幸村は赤みを取り戻したくちびるで、わしの額に接吻をした。
二十四年はもう来ていたのだな、とこのときはじめて気が付いた。
夢十夜の第一夜は伊達真田ですよねっ政宗誕生日おめでとう。