市は長政を待っているとき、勢いをつけてごろりと布団に転がるのが好きだった。
兄、信長の城のように、寝室にまで画家を呼んで豪奢な絵を描かせるようなことは浅井の城にはないから、それが少しつまらない。
このようなすがたは侍女に見せると、
行儀が悪い、
あの兄にしてこの妹あり、
というようなことは言われるのは、市はじつは嬉しいのだった。
市は布団に転がる以上に、じぶんの首に手を這わせるのが好きだった。侍女に気づかれないように障子の影で、そのままぎりぎりと絞める。
市は声を漏らさぬように死を考える。
兄のもたらす死を思う。
兄はまるで遠い大陸の昔話に登場するような、覇王である。彼らと肩をならべる存在になりつつあるのかもしれない。この日の本においては異質な存在。
いや、覇という言葉で兄に眷属が見つかるとはとても思えなかった。兄はむかしからひとりだった。乱暴者でうつけと呼ばれていた織田家中においても、おそらく妻をめとり幾多の家臣をかかえる今だって。
ただ市は、じぶんだけは兄を理解していると感じる。だって信長が傍に置くことを厭わないのは、じぶんだけだったからだ。
子どものころ、兄に贈られた小鳥を空へ放してしまったことがあった。侍女は、
信長さまのお怒りをかったらどうなるか、
と怯えたけれど、
籠のなかはかわいそうだったから、
じぶんが説明すればわかってくれると市は信じた。事実、信長は、
ふん、
と鼻を鳴らしてそれ以上はとがめなかった。
ほら、
と市は喜んだ。
市がわかっていればいいの。
兄は優しかったのだ。そのような兄が与える死は苛烈で、優しいものに決まっている。
呼気のせいか蝋燭が揺れる。市は夫の言葉を思い出す。
――違う市、優しい死などありえない、死をもたらすものは悪だ、悪は滅せねばならぬ!
これは正しい言葉なのだと、兄を恐れる本能が告げる。
信長が悪? そんな、はずは――、
しかしそもそも、嫁入り先がさだまったときに信長は言ったのだ。
――夫によく従え、
兄がそう命じた。信長が間違ったことを言うはずがないと、信じていたい気持ちがある。だがその通りにしては、矛盾してしまう。
ただしくないのは、誰。
――わからなくなる。
頭痛は酸欠のせいだろうか、悩んでいるせいだろうか。
矛盾をはらんでいるのは市自身だろうか。それともこの世か?
兄がすべてを滅ぼす日か、
夫が信長を滅ぼす日か、
感じる自分が滅びる日か。
市は待ち望んでいる。
BASARA2をプレイしていて違和感がありました。
ずっとその正体について考えていたのですが、
信市のパイオニアであるところの「たてひで」のカマさんと仙台旅行に行ってがっつり語り合ってようやく掴めてきた気がします。
BASARAにおいて信長さまというのは圧倒的な恐怖として描かれているように思えます。ただの恐怖でしかないから、思想が感じ取れない。そもそも思想が必要ない。地震雷火事信長さまです。市は言ってみれば天災に責任を感じているので、市の「ごめんね…」には違和感が(少なくともわたしには)あったわけです。市は信長さまの罪をかぶることで愛を証明したいのだと思います。けれど彼女は長政の妻でもあるので、そこに彼女のねじれがある。
要するに信←市の魅力を教えてくれたカマさんにお礼小説を書こうとして玉砕したのでした。
G行為を書こうと思ったのです。下品なサイトです。