「……殺せ」
身体じゅうをぼろぼろにして、くちびるからは口内からではなく内臓を傷つけられたために溢れた血が漏れていた。まさに手負いの獣。獰猛な光を両眼からぎらぎらと放ちながら、口にした言葉は絶望。
これがあの、真田幸村なのか。
伊達政宗は、渇ききった喉をごくりと鳴らし、幸村のいまにも折れそうな、末期の輝きのような覇気を思った。長篠で、武田が織田と戦っているという情報を得たのはつい先日のことだ。真田幸村は鬼神のごとく奮戦している、とも。信玄公はどうした、という問いに、小十郎はやや迷った後、報告を続けた。「恐らく信玄公が病に伏しておられた、という噂は事実だったのでしょう。噂がここまで届いてきたのが一年前…」小十郎に、
「なら敗戦は必至、か」
と、真田を迎えに行くとの決意を伝えた。小十郎は反対ひとつしなかった。
「単騎でのご出陣はお止しください。城を空けぬ程度に、早急に精鋭を集めますゆえ」
「頼む」
――そして、今。
これがあの、真田幸村なのか。
戦に出れば天覇絶槍、その実ふと見せる笑みは初夏の日差しのごとき眩しさを見せた、真田幸村なのか。
暴れる幸村を成実が押さえつける。
幸村は、
「殺せ」
とだけ吐きだす。
失った右目が疼く。
どうしてそんなことを言う!
おれとは真逆だったろう…
愛されて育ったお前が!
自ら死を望むなど。
政宗は衝動的に、血に汚れた栗色の髪を引っ掴む。ぐ、とわずかにうめくその耳元に、
「おれの元で働け。生きて苦しめ」
命じたのは、怒りのためだけではなかった。
怒りだけではなかった。
だが幸村はもとよりそれを屈辱としてしか捉えない。政宗ははなはだ己に疎く、惚れているから生きてくれなど、口に出来ようはずもなかった。
漫画版にしようとして失敗しました。
政宗の存在で幸村が生き返る話が書きたかった。それだけ!