魔王、織田信長の噂は日毎に拡がる。まるでこの大地を、どす黒い血で穢すがごとく。その力が強大であることは疑いようもない。しかし、あの圧倒的な破壊力。ただ壊す侵略。

 ――奴は違う。

 ――奴は危険だ。

奥州・甲斐それぞれの御大将の、共通した認識であった。ゆえに今日、伊達政宗・武田信玄が名代真田幸村。この両名の間で、正式に同盟が組まれることとなったのである。織田信長を、倒すべく。

戦場で相見えたことこそあったが、簡素な茶室で遠慮なく語り合うような仲ではない。それは二人に言えることなのだが、幸村はただ代理という身分であった。気負いもあったし、会談という場に不慣れという自覚はあったからだ。

茶室を出ると、真田幸村はすぐに腕をのばして伸びをしていた。だが身体の筋はなかなかほぐれてくれないようだ。ただの気負いによる緊張ではなく、『信長』という名が、神経をピリピリと刺激していたのだろうと、伊達政宗は推測する。

伊達は武将としては若かったが、恐怖を否定するほど幼くはなかった。頭に血の昇りやすい自分が、逃げをうとうとしたはずの敵に逆に手傷を負わされた経験もある。腹心曰く、「恐れは怒りほど忌むべき感情ではありません。恐れに呑まれることさえなければ、敵を推し量ることができましょう」という。そう、『信長』を恐れ、推し量ることなしには、今日はなかったのだ。もっとも、伊達自身には希薄な感情であるが。

ふと頬をなぜる風の冷たさ。振り返るとざわざわと鳴る竹林を背景に、紅い炎を宿した青年が立っている。

「手合わせ願いたい」

 低い声で、呼ばれた。何かを、押し殺した口調だった。答えを待てないらしく、真田は自らが預かっていた伊達の六爪を放り投げて来る。

Heat upして来ちまったのか?」

 伊達は向き合って応え、ニ槍を帰す。すらり、と伊達が抜刀する。幸村も構えている。両者の意思が交錯する。俺様は国主、テメエは兵……でも通じ合ってしまうんだな、真田幸村。

「やっぱ、テメエは最高だ…。Are you ready?」

 畏怖など、恐怖など、――そうして得る冷静さなど、爪先ほどの価値もない。あらゆる感情は、獲物を握る手へ昇華する。それしか知らない。すべては戦へ。戦の昂りに向かうための布石にしか過ぎない。戦馬鹿と哂うなら哂え。いまの俺には、そして真田には、ただこれひとつが真実。

「伊達政宗、推して参る!」

伊達は庭の砂利を蹴る。