やめておいたほうがいいよ、旦那。
 かわいそうな男だよ、
引きずりこまれに行くことなんかないよ?
 
 日の本の国じゅうに精緻に張り巡らされた情報網をその手に手繰り寄せ、甲斐の虎にあやまたず報告する。猿飛佐助はその重大なる任を果たしつつ、また戦のときも頼りになる存在である。だから幸村は、佐助の言葉に全幅の信用を寄せていた。
佐助によれば、伊達政宗という男は、ずいぶん不幸な育ち方をした男らしかった。だから天下をつわものを、旦那あんたを欲しがるんだ。確かにあの御仁は独眼竜だよ、嵐を起こし、周りを巻き込んでおいて、自分は真ん中にいて傷つかない。おれは旦那に、引きずりこまれてほしくないよ。
 
やめておいたほうがいいよ、旦那。
 
しかし、佐助を信じているからといって、幸村が忠告通りの決定を下すかというと、それはまた別の話である。幸村はそれよりも、自分の直感を信じた。経験の足りないみずからの、おさなさに近い若さを知らないわけではない。ただ、佐助の助言よりも最終的にじ分の勘を信じてしまう己のようなおろかものは、一度思い切り騙されてみるがいい薬だろう。
そのときは、佐助、済まぬがまた叱ってくれ。
決めたのだ。決めて、しまったのだ。
それがしは、悔やまぬ。
「政宗どのに、会いにいく」
 愛馬にまたがり、その頭(かしら)、目指すは奥州。